schema
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いつからか、聞こえなくなってしまった。
あの妙なる音色は
常に、僕の心に安らぎを与えてくれていたというのに





nacht Music





「なにやってるんだ、ヒーラー。」

バルコニーで目を閉じて、耳を澄ましていると
その行為を不思議に思ったのか、ファイターが声をかけてきた。

「・・・音が、聞こえるんだ。おそらくは、四弦器の。」
「四弦器?・・・ああ、本当だ。誰か、この神殿のどこかで弾いてんのかな。」
「プリンセス・ネプチューンですよ。」

リキュールの入ったグラスを三つ、手に持って
今度はメイカーが現れた。

「プリンセス・ネプチューン?ネプチューンって、あの月の外部戦士のことか?太陽系外からの侵入者から攻撃を守る三戦士の一人の・・・。」
「ああ、そうです。この星と彼女のポイントである海王星の軌道はとても近いのですよ。かつて彼女は月のクイーンの楽師であったと聞いたことがあります。星に封じられた今でも、こうして時々弾いているのでしょう。」
「フゥン・・・。」

プリンセス・ネプチューン。
月の外部戦士の一人であり、三種の神器のうちの一つを司る戦士。

たしか、一度だけ逢ったことがある。

皇女に付き添って、月の神殿で行われたプリンセスの誕生祭に出向いたとき。彼女はその時も、奏でていた。






月のクイーンとプリンセスへの堅苦しい祝辞も終わり、それぞれに与えられた客室へ戻った。皇女とファイター、メイカーは疲れていたのか、すぐベッドに入り眠りについていたが・・・僕は何故か眠れず、そっと部屋を抜け出して、ひっそりと静まり返った神殿の回廊を独り、歩いていた。

その時、聞こえてきたのだ。ひっそりと、控えめに
しかしその音色は、とても美しく、また憂いを秘めていて

必然的に惹かれて、その源のありかを探した。聞こえてくる音色を辿って向かったその先は、泉湧き出る月の庭園。星々から放たれる青白い光に照らされて、彼女は立っていた。

四弦器の弦にあてた弓を、ゆっくりと行き来させ震わせ、音色を紡ぐ。長い睫毛に縁取られた瞼を閉じ、海を思わせる色の波立った髪を風になびかせ、ただ、紡いでいた。

綺麗、だった。

ほぅ、と感嘆の吐息を吐いた瞬間、ピタリと弓の動きが止まった。
右手が下に降ろされる。

閉じていた瞼を開け、こちらに振り返る。

海色の髪の毛が、揺れた。

「・・・どなた?」

凛とした、声。
髪の色よりも濃い色をもつ、透明な瞳。

「あ、あの・・・邪魔してしまって、すみません!つい、あまりに美しい音色だったものだから、その・・・。」

あまりに綺麗な瞳に真っ直ぐ見つめられたせいか、うまく言葉を紡げない。

「構いませんわ。」

そんな僕に、彼女は微笑を返してくれた。
僕の緊張を、解こうとしてくれているかのように。

「あ、あの!僕は、キンモク星丹桂王国の守護戦士、スターヒーラーと申します!」

とりあえず名を名乗らなければ、と意味もなくあせった。使い慣れない敬語を無駄に並べてしまうのは、ここが月であるからか、それとも

「キンモク星・・・?ああ、今日プリンセスの誕生祭に招かれた、星の方ですわね?遠いところから出向いてくださり、ありがとうございます。」

向けられた微笑に、僕はただつまらない返答をかえすばかりだった。

「あの・・・どうぞ、続けてください。もっと、その・・・上手くいえないのですが、あなたの音を、聞きたいです。」

ようやく言いたかった言葉を喉の奥から吐き出す。ありがとう、と彼女は言い、再び弓を滑らし始めた。

星が煌く空に吸い込まれるかのように、音が響く。
瞼を、閉じた。
心に響き渡る音って、こんな感じ・・・?

瞼を開けて、彼女をもう一度正面から真っ直ぐ見た。

透き通るような白い肌に、華奢な身体。
波立つ、長い海色の髪。

綺麗。

「ネプチューン!」

再び、ピタリと弓の行き来が止まる。音を紡ぐことを妨げられたことに、何一つ嫌な顔をせず、むしろその逆で

「あら、ウラヌス。星空の下の散歩は、楽しめて?」
「そんなんじゃ、ないさ。目が覚めて、あまりの寒さにぬくもりを求めて君を抱きしめようとしたら、僕の隣は空っぽだった。」

暖かい眼差しを、その人に投げかける。
投げかけられたその人も、同じように返した。

「・・・そいつは?」

僕に真っ直ぐ視線を投げかける。
それは少しばかり、きつかった。

「プリンセスのバーズデイパーティーに招かれた、星の方よ。私の奏でる曲を美しいと言ってくださった、優しい方。」
「フゥ・・・ン。」

フッと目をそらされた。

「そんな薄着じゃあ身体も冷える。そのくらいにして、そろそろ中へ入ったら?」
「そう・・・ね、ウラヌス。そうさせていただくわ。」

肩から四弦器を降ろし、僕とウラヌスと呼ばれた人のほうへゆっくりと歩いてきた。通りしなに、ふわりと微笑む。

「今宵は、私の音を聞いてくださって、ありがとう。縁があったら、またお会いしましょうね。」

じゃあ、と一礼して、去っていく。

「あのっ!!」

思わず、引き止めた。

ここで、もう永遠に逢えなくなるのは、いやだと
いつか、また再び、出会いたいから。

「お名前を・・・聞かせてもらえませんか・・・?」

振り返り、まるで聖母のような微笑をたたえて

「ネプチューン・・・。海の星、海王星を守護にもつ抱擁の戦士、ネプチューンですわ。」




また 逢いたい

また 逢おう

いつか

いつか

もう一度


「・・・月の王国が、滅びたようだ・・・。」
「プリンセスや、そのロイヤル・ガード達は皆、クイーンのお力により、地球に転生させられたらしいが・・・。」


何年かかってもいい

たとえ、貴女が僕にとって遠い存在になっていようとも


「我らのプリンセスは、どうやらあの地球にいらっしゃるらしい。」


もう一度、貴女の紡ぐ音色を、聞かせて欲しい


「大気、夜天!!」


それが、僕の


「・・・どうしたのですか、星夜。」
「そんなに慌てふためかなくても、僕らはここにいるよ。」
「俺に感謝しろよ?あの海王みちると、ジョイントできることになったぜ!」

海王、みちる

月の外部戦士、セーラーネプチューンの転生した姿

ネプチューン

「彼女と・・・?」
「と、いうことは・・・近いうちに、太陽系のセーラー戦士とコンタクトできそうですね。」
「海王みちる・・・そうか、彼女が・・・。」
「・・・オイ、俺に感謝の言葉の一つくらい、ないのかよ?」




多くの観客の中

たくさんの歓声に包まれ、たった一つのスポットライトに照らされて

貴女は、立っていた。



その姿は、とても





綺麗。

meg (2011年6月 1日 15:22)

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