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「・・・陛下、二点ほど質問させていただいてもよろしいでしょうか」
「ん、なんだ?」
「あの、先ほど与えられている寮の自室へ足を運びましたところ、あるはずの私物が全て姿を消していたのですが・・・」
「ほう」
「・・・それともう一つ。陛下の御腰にございますその二振りの脇差は、一体どういう・・・」
「おう、気がついたか」
「・・・・・」
「ははっ、そんな顔をするな」


 ついてこい、とご機嫌な面持ちでわたしを手招く。なにやら嫌な予感がする。

 謁見の間を出、階段を下り彼の自室へと続く扉をくぐる。何故か数日もの間、彼によって彼の自室へ立ち入ることを禁止されていた。「それでは御守りできないではないですか!」と反論するも、「これは命令だ」と一点張り。暫く睨み合うも、一臣下である自分が彼に逆らうことなどできるはずがないではないか。溜め息を吐いたところで、今度は後ろから大佐に肩を叩かれる。「丁度よいですから、今日明日と書類の処理を手伝ってはもらえませんか」と至極笑顔で。このようなタイミングで、しかも普段なら一言二言文句を彼に浴びせる陛下が「ああ、それはいい。そうしてやってくれ、」と笑顔で賛同するではないか。

(絶対に、陛下は何かを企んでいらっしゃる・・・)
 誰に言われるでもなく、そう感じた。それは予感ではなく、確信であった。

 そうして大量の書類処理からようやく開放され二日ぶりに戻った自室は、蛻けの殻。





 扉をくぐったその先は、どういうわけか見知った風景とは少し異なっていた。物の散らかりようも、走り回るブウサギ達もなんら一つ変わりはない、が。たしかにそれまではなかった、一つであったはずの扉が二つに増えている。

「・・・陛下」
「ふっ」

 それまでなかった方の扉へと、彼は歩み進んでいく。
(ああ、もしかして・・・いや、そんなまさか・・・)
 嫌な予感は現実のものへと変わる瞬間であった。扉のノブに手をかけ、一気に開き放つ。小さな扉から見えたその部屋には、ああ、やはり自分のよく見知った私物がそれはそれは丁寧に並べられている。

「どうだ?足りないものがあったら遠慮なく言ってくれ」
「陛下・・・」
「少しばかり狭いかもしれないが、我慢してもらえるか」

 いや、そういうことではなくて(むしろその部屋は自分の住んでいた寮の部屋よりも幾分か広く、家具なども上等なものばかりだった)

「陛下・・・これはどういうことですか・・・」

 語気を荒げる気力もとうに失せていた。そして、彼の言い分を予想できない自分ではない。

「だって、ホラお前よくよく考えたら俺の護衛役なのに、なんでここから離れたところに住んでいるんだっていう、な。普通おかしいだろ?護衛ってのは、いつも近くにいるから護衛っていうんだよなー」

 俺もなんで気がつかなかったんだろうなー、とわたしと同じ名を与えられている小さなブウサギをひょいと掲げる。
(それは、陛下が男性であり、わたしが女性であるからです)
 と心の中で分かりきった解答を返す。だいたい・・・

「・・・大臣方からご了解を得ることができたのですか?」
「いんや、事後報告だ。あいつら頭が固くっていい加減いかんな」
「やっぱり・・・!」

(このような所にわたしを住まわせて、いつか奥方を迎えた日には、わたしはどうしたらいいのか・・・)
 だからこそ、大臣達もこのことについては(もちろん、わたしを護衛役に迎えるという時点でも)異を唱えていたというのに。

「なんだ、気に入らないのか?」

 ずい、と顔を覗き込んでくる。思わぬ至近距離に、う、と少しあとずさる

「そ、そうではなく・・・」
「じゃあ、なんなんだ?」
「へ、陛下はもう少しご自分の立場というものをお考えになってくださいませっ」

 立場?ととぼけたような顔をする。ああ、もうこの御方は本当に

「お、御后さまもまだお決まりでないというのに、万が一あらぬ噂を立てられてしまっては、わたくし立つ瀬がございません・・・!」

 言い切って、そっぽを向く。ああ、なんだか涙が出てしまいそうだ。口に出したくもないのに、考えたくもないのに言わせる彼が憎い。

(陛下の、ばか・・・!)




「・・・俺は、」

 髪の毛に何かがかかる。そのまま緩く引っ張られ、耳元で優しい風が吹く。

「お前となら、そんな類の噂は大歓迎だけどな、」



















 ああ、もう本当にこの人は







「―――陛下は、本当に思慮が足りません」
「・・・お前も言うようになったな」

 くすくすと笑みが零れる、のが聞こえた。
(笑い事では決してないわ・・・)





 でも、


「そうですね・・・陛下がどうしても、とおっしゃるのならば、ここに住まわせていただくことにします」

 振り返りそう伝えれば、とても嬉しそうに「俺はどうしてもお前に住んでもらいたいぞ!」だなんておっしゃるものだから、ああ、結局わたしはこの人に弱いんだわ―――


















「・・・ところで、先ほどもお伺いいたしましたが、その脇差は一体どういうおつもりですか?」
「ああ、これか?俺んとこは代々二刀流なのさ。この剣も、剣技も代々受け継がれるものなんだぜ」
「陛下、剣術など習っていらっしゃったのですか?」
「そりゃあ、もちろんたしなみとしてな。まぁ実際に振るったことはないが、俺も張り切らないと」
「・・・どういうことでしょう」
「お前も人に言えるほど、物分りが良いほうじゃないようだな」

 いいえ、どちらかというと分かりたくないので分からない振りをしているのです。そんなことはきっと、貴方だって百も承知だと思いますが。

「俺だって頼ってばかりはいられないってことさ」





 そう言えば、「もう、陛下!」とぷりぷり怒り出す君の顔が目に見えるようにわかる。(実際その通りになったわけだが)けれど、そこはやはり自分にも"男のプライド"というものがある。女性にばかり護られてはいられない。ましてや、想い慕う女性にだ。

「だた、護られっぱなしというのは癪なんでな」

 再びぷいと背を向けてしまった彼女の顎に、手を伸ばす。

「俺にだってな、お前を護ることくらいできるのさ」

 無理矢理こちらを向かせ頬に口付けを贈れば、途端に真っ赤に染め上がる君の顔。







其の鮮やかな色で
彩ってあげる








そんな君の表情は、俺にしか引き出せないんだってね





meg (2011年6月14日 16:57)
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