「ゆかり、もう決めたー？」
「うん、モチロン、抹茶フラペチーノ。」
「ゆかり、毎回それだけど、飽きない？」
「とーぜん！てか毎回同じの頼んでるのはアンタでしょっ！...って、今日は珍しく悩んでるのね。」
「う、う～～ん...。」

　飲み物を買い求める列に並びながら、前もって渡されたメニューとにらめっこしながら、うなり続ける親友を見て、思わず笑みが漏れる。

「バニラフラペチーノにチョコチップトッピングもいいけど、キャラメルフラペチーノをヘーゼルナッツシロップに変更も捨てがたい...っあ、今日から限定フラペチーノ発売じゃない！......って、ゆかりッチ、何笑ってるのよぅ。」
「その呼び方、順平思い出すからヤメテ。」

　ピシャリと言い放つも、特に悪びれる様子もなく、そのままメニューに視線を戻す。基本的にこの子は、行く店でメニューに悩むことはない。はがくれでは特製大盛だし、シャガールではココアだし、わかつでは豚カツ定食。（こうやって書き連ねると、いつまでも完璧スレンダーな体型を維持できている彼女に、世の無常を感じる。）

「ここは、トッピングが色々できるから、悩んじゃうんだよね。」

　これまた、効率重視な母似香が珍しい。そう言うと、少しむくれて、「わたしだってたまには女の子っぽいことしますー、」と口をとがらせた。あ、少し気にしてたんだ。

「まぁ、先輩とデートっつったら、はがくれか海牛なんでしょ？」
「うん。」
「あの人らしいっちゃらしいけど、たまにはさ、女の子が喜びそうなところに、連れて行ってくれればいいのにね。」

　いつの間にか列は進んでいて、自分達の番。まだ決めあぐねている彼女を尻目に、さっさと注文を済ませる。抹茶フラペチーノ、に、チョコレートソースをつけてみた。別に、彼女に影響されてのことじゃ、決して、ないけど。

「先輩、甘いもの苦手だし、気を使って連れてきてもらってもね。」

　あ、でも一回連れてってもらったな、あれは嬉しかった！と、えへへとだらしなく頬を緩ませる。嬉しいんじゃない、と呆れたかのように言えば、「それはそれ、これはこれ、」と言い、

「キャラメルフラペチーノで、キャラメルシロップをヘーゼルナッツシロップに変更でお願いします。」

　結局、"いつもの"を注文した。

「それに、こういうところには、女の子と来る方が、好きなんだ！」

　飲み物を受け取り、席に着く。彼女は一旦飲み物をテーブルに起き、先にセールの戦利品を袋から出し、並べ始める。ファンデーション、パウダー、チークにアイシャドウ、そして香水。化粧品については、彼女に見立ててほしいと頭を下げられ、いろんなブランドを回って試し、最終的にナチュラルなものに落ち着いた。今の彼女の顔につけられているのもそう。...選んだ身としても、上々の出来だと思う。感謝してよね、センパイ。
　香水は、お気に入りのものがきれていたとかで、彼女が自ら選んで購入したもの。といっても、こちらは相変わらず、"いつもの"ものだったらしい。一直線にそれが置いてある場所へ行き、横に並べられていた別の香りには目もくれず、手にとってレジに直行。所要時間は一分もかからなかったんじゃないだろうか。

　彼女は戦利品を綺麗に並べ、携帯を取り出し、向きに気をつけてお決まりのシャッター音を鳴らす。間髪入れずに聞こえてきたキーを打つ音に、ああ、写メールでも送るのね、マメねぇ、と感心する。

　ホイップクリームを潰さないように付けられた、ドーム状の蓋を外し、スプーンでかき混ぜる。そして再びふたを取り付け、今度は袋からストローを取り出し、刺す。

　ストローを口に含んで、中身を吸い上げ口に含んだ瞬間。

「そう、それ！」

と、いつの間にか携帯をしまった彼女は私を指差し、満足そうにえへへと笑った。

「美味しい～～！って顔、見るの好きなんだよね！」

　と、自身もようやく飲み物を手にしドーム状の蓋を外して、ホイップクリームとフラッペを半々ずつになるようスプーンにのせ、そのまま口に入れる。

「ん～～、おいっしーー！」

　と、眉を八の字に下げ、幸せそうな笑顔。私、絶対にそんな今にも溶けそうな顔はしてなかった。はず。

（ああ、なるほどね。先輩がおいしそうに食べてる顔を見られるから、デート場所がはがくれでも海牛でも、なんでもいいと。）

　それにしたってホント、こっちまで幸せになるような顔しちゃって。

（先輩だって、この顔が見られるんなら、嫌がるどころか喜んで連れてってくれるだろうに。）




　というのは、本人が気がつくまでしばらく、黙っておこうと思う。彼女を独り占めできる数少ない機会まで、まだまだ奪われるわけにはいかないのだ。

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某ス○バで私がいつも迷う組み合わせ。最近は、キャラメルフラペチーノ、ヘーゼルナッツシロップ変更に加え、チョコチップ追加も覚えた。