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「...先輩のペルソナのアルカナって、"皇帝"ですよね。」
「ん?...ああ、そうだが。どうした、急に。」

 気怠そうな声。事の後は、女の方が先にこの雰囲気から脱却するような気がする。ロマンチストは男性に多い、というのも、この所以かもしれない。

「なのに、なんで先輩との絆のアルカナが"星"なのか、ずっと疑問だったんです。」
「......絆のアルカナ?」
「あ、いえ、こちらの話です。とにかく、順平は"魔術師"だし、ゆかりは"恋愛"なんですよ、ちゃんと。」

 閉じたままの瞼。頬に影を落とす長い睫を見つめて、ずるいなぁこの人は、と改めて思う。そして、意外と子供っぽい可愛らしい寝顔(いや、まだ寝てはいないんだけど)に、つい頬が緩む。思わずすり寄ると、枕と化している右手で、よしよし、と指先を髪の毛に絡ませて、ゆるく頭を撫でてくれる。

「でも、なんで"星"なのか、ちょっと分かった気がします。」

 いつぞやかの、江戸川先生の授業を思い出す。

『16番「塔」で、価値観が一旦崩壊します。』

 わたしがこの場所に、デスを導いてしまったこと。わたしがこの場所にさえ来なければ、世界にニュクスは訪れなかったこと。わたしがみんなと出会わなければ、こんなにも絶望させることはなかったこと。

『これにより、何も無くなったかに見えますが...。』

 順平に、なんとかできなかったのかと責め立てられた時、何も答えることができなかった。いや、何も答える資格などないと思ったから。「だって知らなかった」、とか、「わたしのせいじゃない」、とか、そんな逃げの答えばかりで。どんどん自分の心が、真っ黒の暗闇の中へ落とされていく感覚。そう、両親を失ったあの時のような、感覚がした。居場所がなくなった。一度開いた扉をまた自ら閉めてしまう、そんな時。

『そこで見つけるのは希望という名の小さな光。これが17番「星」のカード。』

 合わせる顔なんてないとわかっていながら、どうしても向いてしまった足。目の前には、『真田』と書かれたネームプレートがぶら下がる扉。彼がいる空間と、わたしが立っている空間が、扉ただ一枚隔てただけで、こんなにも遠く感じる。しばらく、ただずっと眺めていた。そうしたら突然、開かれたのだ、その扉が。

「先輩はわたしが迷った時、いつだって、希望を見出させてくれる。」

 突然前触れもなく開いたその扉に、ただただ驚いていたら、「なんとなく、そこにいる気がした。」と、表情に笑みが広がる。今までその笑顔に、何度救われて来たことだろう。そのまま言葉を発することなく手を引かれ、その空間の中へと優しく迎え入れられた。その後、お互いがお互いを獣のように欲し合うまで、そう時間はかからなかった。

「...いまいち要領を得ない話だが、お前を守りたい、お前の助けになりたいと思っていることには違いない。いつだってな。」

 そうして、力任せにぎゅうと、抱きしめられる。シーツの中で、お互い素肌であるこの状態でのきつい抱擁は、衣服を着ている時よりも、もっともっと、体が熱を持つ。心臓の音が、お互いの肌を通して血液に溶け込み、一つになる感覚。体勢的に、腕を彼の背中に回せない、代わりに、彼の両肩を、ぎゅっと掴んだ。

「先輩は、いつだって、わたしの心の支えです。」
「それは、よかった。」
「だから...。」

 額を、彼の胸に押し付ける。ああ、なんて暖かいんだろう、ここは。中心とまでは言わない、ただ片隅でもいいから、ずっとこの中に居られたら。

「......わたしも、先輩の支えに、させてください。」

 目を閉じ、すぅっと息を吸い込むと、甘い匂いと共に、睡魔が下りてくる。ああ、なんという幸福感。この腕の中で、眠りにつくことができるなんて。

「そんなこと...、言うまでも......―――」

 最後の台詞は、吐息と共に空気の中へ、溶けて消えた。


When You Wish upon a Star


(むしろ、いつだって救われているのは、俺の方だというのに。)







江戸川先生の、タロットカードの講義を見た瞬間、「ktkr!」と叫んだのは私です。
meg (2012年4月16日 15:01)

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