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「先輩、これでどうでしょう?」
「ん?ああ......。」

 差し出された小皿に浮かぶ、味噌汁の試食を請われる。以前は、試食にはかなりの勇気が試されるものだったが、一品ずつではあるが、確実に腕を上げて行っている。この献立も、腕を上げたうちの一つだ。

「......うん、いいんじゃねえか。これならどこへ出しても恥ずかしくないさ。」
「よかった!!」

 蕾だったものが、花開いたような笑顔を見せ、コンロの火を止めて皿の準備を始める。自分が現在担当しているメインディッシュも、あともう少し。彼女がご飯と味噌汁を器に入れ終わる頃には、準備が整うだろう。

 ふと、料理の出来を今か今かと待ちわびている二人へと、目をやる。丁度テレビの画面上に映し出されている、防犯・医療系の番組について、仲睦まじくあれこれと討論している最中だった。

(まったく、人んちまで来てイチャつきやがって。)

 そしてもう一度、鼻歌を歌いながらしゃもじを水ですすぐ彼女に目をやる。

(俺らもいい加減、進展ねぇよなぁ。)

 彼らに丁度一年遅れて付き合いだした。遅れたとは言え、もうあれから何年という月日が経過している。喧嘩は少ない方、だと思う。することもしている。けど、こう......先輩と後輩、あるいは先生と生徒のような、その立ち位置は相変わらずのまま。

 相変わらず、といえば。最近、少し変わったと思う点がひとつ。

「オイ、やま――......風花。」
「――え?」
「お前、少し髪伸びたんじゃねえか?」

 すい、と彼女の碧い髪に手を伸ばす。普段襟足で切りそろえられている毛先は、少し飛び出し、肩にかかり始めている。こうして手を出された本人は、最初こそ驚いたように肩を震わせたものの、

「あ、そうかもしれません。最近、切りに行ってないですし......。」

 と、自分も伸びた髪に手をやった。「うーん、」と何か考えているような素振りを見せた後、チラリと、カウンター越しにあるリビングで、恋人と共にテレビを見ている彼女の方を見る。長い長い髪を結い上げた、揺れるポニーテール。

「......荒垣先輩は、長い方がお好きですか?」

 短い方が好きか長い方が好きかと問われれば、答えは"どちらでもいい"だ。......いや、違うな。"お前なら"どちらでもいい、だ。ただ、気になることが一つ。

「"先輩"、じゃねえっつったろ。」

 一瞬首を捻り、あ、と慌て、そして少し頬を染め、

「し、真次郎、さん......。」
「おう。」

 言い終えた途端に、かぁーーーっと、耳まで赤くなる。まったく、こりゃあ存外、時間がかかりそうだ。


「......ねぇ、明彦。」
「何だ。」
「荒垣先輩って......前からああだったっけ?」
「ああって、なんだ。」
「その、なんというか......基本的に、周りが見えなくなるタイプではない、と思うんだよね。」
「まぁ、そうだな。」
「恋って、先輩すらも変えてしまうものなのかぁ......。」
「そうかもしないな。」

 俺と、お前みたいにな。

「......聞こえてんぞ、お前ら。」
「キャッ!せ、せんぱ......い。」
「おう、シンジ。メシはまだか。」
「うるせぇぞ、食べさせてもらう分際で文句言うんじゃねぇよ、アキ。」
「も、もうあと5分ほどで出来ますよ!」
「ああ、済まないな、山岸。」
「おい、俺に労いの言葉はねぇのかよ。」

 そう、イロイロと。だいたい、お前たち二人をこうしてまとめ上げるのに、こっちはどれだけ振り回されたと思っているんだ。原因は、必ずしもこの唐変木だけのせいではないところがまた、やっかいだった。

 まったく、と独りごちりながら再びキッチンへ戻れば、

「お疲れ様です、真次郎さん。」

 まだ少し赤みの残る、優しい笑顔で迎えてくれる彼女。

「......おう。」

 悪くない。確かにこういうのも、悪くはない。


そのスピードで。


 四人で囲む、久しぶりの夕食。
 客人達の左手薬指には、真新しい銀色の指輪が輝いていた。







月コミュで、風花ちゃん従えてお料理する姿が、なんとも。真ハムの次は男主ゆか、荒風が好き。この2CPに順位なんてつけられない!
meg (2012年4月23日 14:14)

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