schema
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::CAUTION!::

真女主前提で、男主→真のち男主ゆか、です。
男主と女主が同時に存在しています。
ニュクス・アバター戦後、主人公がニュクスに突入する直前捏造です。
ややっこいです。2人以外は衝撃波にやられて、
2人の会話が耳に入ってこないことにしてください。←

ちなみに管理人は、自分でもドン引きするくらい、
真女主、男主→真、男主ゆか、荒風が大好き。(←どさくさ)

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「あそこに突撃する意味、君わかって言ってんの?」
「当たり前でしょ!わかってなくて、言う訳ない。」

 影時間の大きな月が割れ、中からニュクスと思しき本体から衝撃波が繰り出される中。皆の思いを受け取り、立ち上がることが出来た。それは、俺一人にあらず。俺とは違った形で絆を育てた彼女もまた、俺とほぼ同時に立ち上がった。立ち上がった俺らがこれからどうすべきか、既に分かっている。勝ち目は有るとは言えない。むしろ、ゼロに近いくらいだろう。それでもやらなければ。僅かな可能性があるのなら、それを行わないでどうする。

 その思いは彼女も同じだったようで。

「じゃあなおさら、行かせるわけには行かない。」
「だから、どーしてそうなるのよ!?」

 ここで俺らが立ち上がれた意味。育んだ22の絆の数と、共にベルベットルームで手に入れた「宇宙」のカード。これらが、何を指しているのか。何を持って、アレを抑えることができるかもしれないのか。

「真田先輩を、悲しませる気?」
「......!」

 一瞬、表情をひきつらせる。どうやら、それについては理解をしているようだ。それは、この「世界」に未練があるという証拠。「宇宙」へ行く決心が、出来ていないということ。

「これで分かったでしょ?君にはもう、何よりも大切な人がいる。だから、俺が行く。」

 そう、俺にはこの「世界」に未練はないから。向き合っていた体を前へ向け、そこへ向かって飛び立とうとする。その刹那、

「ーーーーじゃないわよ......。」

 俯いたまま、肩を震わすその姿に、つい動きが止まる。

「え?」

 聞き返した瞬間、彼女は顔を上げ(その表情は、目に涙をためつつも、ひどく怒りに満ちたもので)、ぐいと俺の腕を引き戻した。20センチほど浮き上がった俺の体は、いとも容易く地面へと舞い降り、

「ふざけんじゃないって、言ってるのよ!!」

 彼女がセリフを言い終わるや否や、パァン、という乾いた音が響きわたった。痛みがじわりと現れ出したのは、音が響いてから数秒たった後のこと。

「わたし、知ってるのよ!?湊が先輩のこと、好きなことぐらい!」
「!」

 頬の痛みよりも強い、ガァン、という鈍い音が、頭の中響きわたるような、そんな感覚を味わう。

「もっともらしいこと言ってかわそうたって駄目。わたしには分かるんだから!」

 先輩を見る目とか、話している時の表情とか、全部全部、片思いだった頃のわたしと同じだったもの!と、そう訴える彼女に、ああ、そうだった、そうだったかもしれないな、と、意外にも冷静な思考回路で、彼女を見つめる。個人的には、周りのメンバーに接するときと同等に、彼へも接してきたはずだが。恋愛という感情は、かくも扱いづらいものであり。

「だから......なんだってのさ。」

 自分でも驚くほど冷たい声。わかってる、今まで必死に見ないようにしてきたけれど。

「先輩は君を選んだ。ただ、それだけのことだよ。」

 俺が君に抱いている感情。色で表すならば、ドス黒い、と言っても過言じゃない。

 同じように生まれ育ち、10歳の頃、同じように両親を亡くし体にデスを宿し、去年の春、同じように入寮し、契約をした。それなのに、俺と彼女はこんなにも違う。彼女はまるで太陽のように、いつだってキラキラと光り輝いている。皆が皆、彼女に浄化されていく。そんな彼女に彼が惹かれることだって、もう最初から決まっていたかのように、ごくごく自然に、その形に収まった。

 だから、俺は。そんな君がひどく不思議で、苦手で、羨ましくて......ひどく、憎かった。

「そんなの、キミは逃げてるだけじゃない!!」

 そう、そうやって君は、俺が見たくないものを、気がつかないフリをしてきたものを、全力で突きつけてくる。

「先輩に本心を伝えられないジレンマ、それから......ゆかりのことだって!」

 "ゆかり"、その名前を耳にして、ドクリ、と心臓が大きく脈打つ。

『湊、君......好きだよ。』

 初めて彼女の部屋に招かれた日。そして彼女も、部屋へ異性を招き入れたのは初めてだったことだろう。それを言われた際、無意識に腕は、手は、彼女を抱きしめようとしていた。そう、叫んでいた。けれど、そうする前に、

『でもキミは、先輩のことが、好き、なんだよね?』

「うる......さい。」
「自分がアレを封印すれば、そんな呪縛から解き放たれるって思ってる。先輩からも、ゆかりのことからも......!」


『だから、いいのっ!私はただ、これをキミに伝えたかっただけ。......これからも、仲良くしようね?』


『ね、有里君。』


「......うるさいっ!!先輩を手に入れたやつが、知ったような口をきくな!!」
「でも、絶対に湊はまた後悔する!!」

 衝動に身を任せて、そのまま彼女の襟元を引っ掴む。顔と顔が、近い。こうしてきちんと見てみると、彼女と自分は顔のつくりが少し似ていると、思う。余程近づいて意識して見ないと、気が付きようがないと思うけど。(それほどまでに、普段の表情が違いすぎるから。)

 ひるんだりした様子はなく、まっすぐとこちらを見据える揺るぎ無い瞳。どちらの瞳も、お互いの瞳しか映していない。彼女の瞳に映る瞳は、とても揺らいでいた。

「絶対に、後悔する。」

 もう一度、一文字一文字しっかりと、繰り返す。

「なんで、そんな......。」

 襟元を掴む手を、ゆるゆると離す。すると今度は逆に、彼女がこちらの襟元を、両手でぐいと掴んできた。再び額と額が、ぶつかりそうなくらい、縮んだ距離。視線を逸らさない、逸らせない。もう逃げ場所すら、ない。

「湊、見えてないフリしてる。わかってるくせに。」

 タルタロスでの探索。わたしと湊と、真田先輩とゆかりの四人で行った時のこと。その場合、基本的に前を湊が、後ろをわたしが守りながら進む。その歩みの早さが、変わる瞬間が必ずある。気が付いた時には決まって、ゆかりの肩でする呼吸の回数が増えていた。美鶴先輩や天田君の時には見せない優しさ。(もちろん、気が付けば速度を緩める。要は、その気が付く早さ、タイミングの問題だ。)ゆかりはよく、真田先輩はわたしにだけすごく気を付けるし、優しいという。まさに、それだった。わたしにそのことに対する自覚がなかったように、彼女にもまた、その自覚がないのだ。

「俺は......先輩が好きだ。」
「......うん。」
「先輩が......好きなんだ。」

 自分だけを見てほしい。自分だけに微笑んでほしい。自分の知らない顔を、他の人に見せないでほしい。そう思うことが恋ならば、俺は確かに、彼に恋をしている。実直で、不器用で、天然で、努力家。この人に一言認められただけで、何にでも勝てそうな気さえした。隣に居てくれるだけで、気持ちがとても安らぐ。嬉しくなる。

 けれど、彼女としてみたら。作り上げた垣根を簡単に飛び越えてきたと思ったら、今度はその中に自ら垣根を作り上げて閉じこもる。ようやくこじ開けたと思ったら、今度はあれこれ難題を押し付けて逃げ回る。疲れ果てて、もういいやと手を引こうとするものの、あまりの危なっかしさにハラハラして、どうしても目が離せない。もう嫌だと思いながらようやく捕まえてみれば、見たことのない花を咲かせるものだから、もっともっと、彼女の近くに行ってみたくなる。

「でも、こんなの......卑怯じゃ、ないか。」

 もう自分は彼を手に入れること叶わない。だから、気持ちが移ったのではないか。これ以上傷つきたくないあまりに、自分で自分に嘘をついているのではないだろうか。大体、そんな簡単に諦められるような想いだったのか。

「諦めるとか、卑怯とか、そういうんじゃない。」

 ゆっくりと、手を離される。

「......口に出してみてしまえば、見えてくるものが、あるよ。」

 代わりに右手をこちらにむけて、差し出してきた。ここに至るまでについた、たくさんの肉刺、傷痕。同じものがたくさん、たくさん自分の手にもある。

「ね、行こう?キミとわたしなら、使う命も賭ける命も半分ずっこ。絶対に、戻って来られる。未来は、続く。」

 彼女の後ろには、もうすぐそこまで来て、口を開けて待ち受けている終末。そして更にその先には、来るはずのなかった未来。

「戻って、確かめようよ。そこにあるものがきっと、湊にとっての真実であるはずだから。」





「バカ、バカぁ......二人して勝手にいくんだから......。心配、したんだからぁ!!」

 彼女と二人、お互いでお互いを支え合って、ようやく地上に辿り着いてみれば、途端に彼女が飛びかかってきた。ドンっと胸を叩いて、そのまま泣き崩れる彼女を、震える手で、ゆっくりと、けれど今度こそしっかり抱きしめる。

 わかっている。わかっていた。先輩を見る目が、それまでの恋愛感情から、別の物へと変化していたこと。彼女を優しい瞳で見つめる彼を見ても、すでに心は痛まなかったこと。そして、この腕の中にいる彼女へ抱く、醜い感情にも。でも、それを認めてしまうことは、これまでの気持ちをなかったことにするようで、また、そんな自分がひどく軽薄なものに思えて。いっそ、全てなくしてしまえばいいんじゃないか。そう、思った。自分のまわりから、再びすべてを排除して。一人きりになってしまえば、楽になるじゃないか。

 けれ、ど

「有里、君、苦し......!」

 この手を離す正しい理由こそ、何一つ、存在しなかった。

「湊って、呼んで。」
「......え?有里君、今、なん......」
「湊。」

 もぞもぞと、埋まっていた顔を掘り起こす。良く聞こえるように、わざと、彼女の口元へ耳を近づけた。

「みな......と?」
「......うん。」

 彼女の唇がそう紡いだことを確認すると、そっと体を離す。幾筋にも流れ落ちた涙の軌跡を親指で拭い、その手で彼女の左手を拾い上げた。こんなにも、熱い。繋がれた手から、どちらのものとも区別がつかない鼓動が伝わる。とてもとても、早い。これは、自分のものなのか?......いや、彼女だ。

「............真田先輩。」

 見やれば、あちらもここと同じように、怒りと安堵がまざった表情で、彼が彼女を掻き抱いている最中だった。

「......なんだ。」
「お取込み中すみません。でも、一瞬なんで。」

 彼女の手を取ったまま、体を彼の方へと向ける。彼も、何かを感じ取ったのか、彼女を抱く腕を少し緩め(完全に離さないところが、彼がどれだけ恐怖に感じていたかを感じ取れる)、こちらに向き直る。

「俺、先輩のことが好きです。」

 目を皿のように大きくしてこちらを見る彼と、少しだけ複雑そうな表情をする、彼の腕の中にいる彼女。まったく、馬鹿だね、自分から言ったくせに。複雑な乙女心って、やつか。

「......好き、でした。」

 そう言って彼が何か言葉を発する前に、ペコリと頭を下げて、彼女を引きずるように連れてその場を離れた。



In Between

The only thing that's worse than one is none
(たった一つだけ、よりも悪いことは、何一つ持たないこと。)



「影時間が消える前に、気が付けてよかった。」
「え?」
「例え記憶が消えても、これでまっすぐ、ゆかりを想っていられる。」
「え、えと、それって......。」

 ピタリと歩みを止めて彼女を見つめる。涙をいっぱい溜めて、こちらを見上げる彼女の瞳、真っ赤な頬。齧って、舐めとってしまいたいくらい、とてもかわいい。

「あの......湊?」

 不安と恥じらいが綯交ぜになったような、揺れる声。ああ本当、なんてかわいいんだろう。

「――ゆかりが、好きだよ。」

 その体と心ごと、俺のものになってくれる?

 少し上体を屈めて、彼女の唇に噛り付いたその瞬間、最後の影時間が終わりを告げた。







「そんなの、キミの言うただのクズじゃない!」風な台詞を言わせたくて。「好きだバカ!」はゆかりに言わせたい。
meg (2012年5月 2日 14:19)

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