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::CAUTION!::

ラストに、主人公の死に触れる部分があるので、
苦手な方はご注意ください。

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「何、明彦の中学時代の写真?」

 現在、夜の10時過ぎ。本日はタルタロスへの探索はなし、ということで、それぞれが思い思いに過ごしている。そんな中、ラウンジにかの人の姿がないことを確認して、恐る恐る、以前の彼のことをよく知る彼女に声を掛けた。

「それなら確か、クローゼットのアルバムにいくつか......。」
「ほんとですか!?あ、あの、よろしければ是非、見たいなー、なんて......。」
「......フッ、わかったよ。ちょっと待っておけ、今持ってく――――」

 彼女がソファを立つと同時に、ギシリ、と床の軋む音が鳴った。階段の方からだ。誰と確認するまでもなく、両肩が硬直する。鼻先を、かすかにシャンプーの香りが通り抜ける。

「いいのか、美鶴。」

 わたしのそんな様子を訝しんで、立ち上がったままの彼女に、こちらへ近づきながら、フン、と自信ありげないつもの調子で声が投げかけられる。

「お前のあの時のヘアースタイルが、白日の下に晒されることになるぞ。」

 その途端に、整った眉が歪み、普段あまり変わることのない顔色が、心なしか更に白く変化したように思えた。口元に手をやり、しばらく考え事をするそぶりを見せた挙句、 

「――――すまない、気のせいのようだ。」
「え、俄然気になるんですけど。」

 中学時代の美鶴先輩、の、ヘアースタイル。当時は家から通っていたと思われる先輩。ヘアメイク等はもちろん、専属メイドが受け持っていたことだろう。となると、やはり、あれか。よくあるお嬢様のイメージに漏れず、やはり縦巻きロールというか、ドリルヘアーというか。

 ......今でこそ前髪で片目が隠れるくらいの長さで無造作に髪を流しているけれど、前髪があって、丁寧に髪を巻かれた先輩のお姿は、さぞお美しい......いや、当時で言うなら、さぞ可愛らしいことだっただろう。すこし離れたところにいるゆかりも、その会話が聞こえていたようで、かすかにギリッと歯ぎしりをする音が聞こえた。(やっぱり、想像するよね。)

「大体お前も、美鶴に頼まず直接俺に言えばいいだろう。」
「え、見せてくれるんですか!?」
「そんなわけあるか。」

 ようやく暗がりからその姿が現れる。お風呂から上がりたてというその姿は、まさに水も滴るいい男。何度見ても、その色香に慣れそうにない。いや、多分、七月のあの作戦を、未だに引きずっているせいもあるだろうけれど。

 彼のほうへと駆け寄り、じゃあこれで正解なんじゃないですかー、と、口を尖らせると、うるさい、と拳で優しく額を小突かれた。

「大体、なんで昔の写真なんか......。」

 そのままラウンジの方までは入ってこず、キッチンの冷蔵庫へ直行する。その後ろを親鳥について回る雛鳥のごとく、背中を追ってキッチンへ入る。冷蔵庫の扉を開ければ、それぞれの名前が書かれた各種飲料と、ずらりと並べられたプロテイン、そしてアイソトニック飲料。先輩、部屋にも冷蔵庫お持ちですよね?と問えば、こちらの方がイロイロと効率がいいんだ、と返す。そのうちまた、そのことで言い争いをする先輩二人を見られるに違いない。

 風呂上りには必ず飲む500ミリリットルペットボトルのアイソトニック飲料を取り出し、音を立てて冷蔵庫の扉を閉める。プシ、と音を立ててキャップを外し、上を向いて一気に流し込んでいく。ああ、かっこいいなぁ、もう。

「何でいうか、その......。先輩のこと、もっと知りたい、というか......。」

 理由、なんてそんな。

「中学生の先輩を知ってる、美鶴先輩が、羨ましい、なんて......。」

 見たい理由なんて一つしかないじゃないですか、恥ずかしいこと言わせないでくださいよ!と心の中で叫ぶ。顔が、熱い。見なくても、真っ赤になっていることくらいわかる。

 わたしが知っている真田先輩は、先輩が生きてきた18年間という月日の中で、出会ってからの、ホンの十か月あまり。もちろん、これまでに幼い日の悲しい記憶だとか、聞かせてもらってはいるけれど、その、全部を知りたい、と思ってしまうことは、欲張りでしょうか。

「~~~~っ!」

 制服のポケットに指を滑り込ませ、中から取り出したのは、愛用の真っ赤な携帯電話。パチン、とワンプッシュオープンブタンを親指で押し、パカリと開いたそこに映るは、カメラ画面と驚いたような先輩の顔。まずは一枚、その無防備な姿をシャッターに納める。

「み、見せてくれないと、この無防備な姿、先輩のファンに自慢して回りますからねっ!」
「――――なっ!?」

 ここでパシャリと、もう一枚。また一枚。さらに一枚。

「こ、こら、」

 パシャ、パシャ、

「いい加減に......!」

 パシャ、パシャ、パシャ、

「あーー、もう!」

 パシャ

「こ、このっ!」
「キャッ!」

 突然前方から手が伸びてきたかと思うと、むんず、とわたしの携帯電話を掴む。取られまいと、必死にこちらへ引けば、ミシリと握りしめられているそこから音がする。

「ちょ、だ、だめ、壊れますーーっ!」
「じゃあ大人しくソレを渡せっ!」
「渡せって、何するつもりですかっ!」
「決まっているだろう、データを消す!」
「ぜ、絶対ダメーーーーっ!!」

 何をしてるんだ、何を、と、ラウンジの方から呆れたような声、視線が飛んでくる。が、今の二人には、その様子が他人から見ればどう映っているかなど、気にする余地もなかった。時には取っ組み合いにもなり、その間何度かカメラのシャッター音が鳴り響いた。

 だが、そんな攻防は空しく、所詮は男と女、超高校級ボクサーと一介の高校生テニスプレイヤー。(ペルソナの所持云々については、この際無視しておく。)力で彼に勝てるはずもなく、勝負はあっさりとついた。彼の手の中には、先ほどまでわたしの元に在った携帯電話。

「さっきの写真は削除させてもらうぞ。」
「せ、先輩に、わたしのケータイの使い方なんて......!」
「残念だったな。俺の機種は、お前の機種の色違いだ。」
「!!!」

 なんということ、期せずして色違いのおそろい!?......と、うっかり喜んでいる場合ではない。慌てて取り返そうと、手を伸ばす。が、身長の差は歴然。その分だけ手が届かない。しかも、頭の上から、ぴょんぴょん飛び跳ねないように、その大きな手のひらで押さえつけられている。「やめてーーっ、返してーーーーっ!」とそう叫んでいる間にも、先輩の指先はサクサクとキーを動かし続ける。

「あ、あああ、あーーーーっ!」

 液晶の中に、うっすら見える削除確認画面。「はい」「いいえ」の選択肢が出され、無情にも先輩の指先は「はい」を選択し、プチリ、とキーを押した。

 ほら、とようやく携帯電話を返還される。慌ててデータフォルダの中身を確認するも、折角撮りためた先輩のピン写真は、全て残らず削除されていた。

「あ、あぁ~~......。」

 情けない声を出して、その場に崩れ落ちる。ぐすん、と鼻を鳴らし、ピッピッと、無駄な期待と知りながら、それでも削除漏れがないかとスクロールバーを下へ下げていく。ないよなぁ、と本日の日付が入ったフォルダの一番最下層へ、スクロールを進めた時。キーを押す指が、止まった。

「............?」

 そうっとそのサムネイルを選択し、展開ボタンを押す。

「......!!」

 画面一杯に表示されたのは、微妙に密着して、大きく口を開けて言い争うような二人の顔。

「その写真は、残しておいてやる。」

 真後ろからした声に、慌てて携帯をパチンと閉じる。恐る恐る振り返れば、

「......そんなもの、うっかり人に見せられたもんじゃないだろ?」

 ほとほり冷めたら消せよ、そう言ってバスタオルを背負い、意気揚々とラウンジへ歩いていく。そんな彼の背中を、ただ呆然と見つめ、手の中の携帯電話を軋む音が鳴るくらい、ぎゅうと握りしめた。

「誰が、消すもんですか......。」



戀愛寫眞

あなたと一緒なら、どんな写真だってわたしにとっては宝物。



 座りこんだまま、ぎゅうと力任せに彼女の体を抱き寄せる。するとスカートのポケットから、真っ赤な携帯電話が零れ落ちた。丁度ワンプッシュオープンボタンがコンクリートの地面にぶつかったのだろう。パカリ、と勢いよく開いた。

 慌てて拾い上げ、灯りの灯った液晶を確認する。するとそこには、懐かしい顔が、二つ。

「............この、バカが......っ!」

 徐々に熱を失いつつある彼女の頬と、携帯電話の液晶に、自身から流れ落ちた熱い雫が、二粒、三粒、ボタリと零れ落ちた。








資料用に美鶴先輩の小・中学時代の画像検索したら、死にそうになった。(FES未プレイ。)思いついてからサラサラと筆が進んだ珍しい一品。
meg (2012年5月11日 15:04)

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