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「お前、よく食べるな......。」
「!!」

 巌戸台駅前商店街、隠れ名店"はがくれ"にて、特製ラーメン大盛りとチャーシュー丼をオーダーし、まさに食そうと割り箸を割った瞬間、隣で自分の頼んだラーメンを待つ男からそう声を掛けられた。

「ややややっぱり、女子としてはその、ドン引き、ですかね......?」
「いや......全然食わねぇそこらの女子に比べたら、むしろいいと思うが......。」

 不思議なのは、その体型だ。そのほっそりとした腹回りのどこに、そんな大量の食物が収納されるのかと常々思う。

 そんなこちらの疑問をよそに、「よかった!」と表情を一転させて、嬉々として食べ始める彼女。まぁ、いいか。そんな嬉しそうな顔を見られれば、作った側としても、冥利に尽きるというものだろう。ワンテンポ遅れてこちらにも料理が運ばれてくる。特製ラーメン、大盛り。チャーシュー丼は、頼んでいない。目の前にある箸立てから一つ抜出し、パキリと割る。適量の麺とネギを挟み込み、すする。うん、コシも上々、相変わらず安定感のある美味さ。

「そういやお前、最近アキと出かけてんのか?」
「へ?......いや、あまり......って、どうしてですか?」

 お次はスープ。レンゲでそっと液だけを掬い、少しばかり息を吹きかけてから飲む。うん、こちらも同じく。濃厚なのに、舌触りがいい。美味い。

「なんでって、そりゃ......。」

 スープに浸かることがないよう、レンゲの柄を器の端に引っかけるようにして、置く。

「お前、好きなんだろ?アキのこと。」
「――――★△%◆&#×○!!!???」

 意味不明の単語を並べた後、食べていたチャーシュー丼を勢いよく喉に詰まらせ、女子とは思えないような、盛大な咳を繰り広げだす。「ちょ、つまっ......水、水......!!」と胸をドンドン叩きながら、片手でカウンターに置かれた水を手探りで探す彼女の姿に、つい笑みがこぼれる。

「なんだよ、図星じゃねぇか。」

 ほら、水だと差しだすと、「ありがとう、ございます」と目に涙を浮かべながら受け取る。そのままグラスに入った水を、一気に飲み干した。二、三度肩で息を吐き出し、

「な、なんでわかったんですか......。」

 やっとのことで絞り出す。顔は例にもれず、耳まで真っ赤だった。

「お前、あれでバレてないとでも思っていたのか。」
「ひ、ひつもんを、ひつもんでかえひゃないでくだひゃい!」
「カミカミだぞ、お前。」

 も、もしかして真田先輩にもばれてるんじゃ、と両頬に手を当ててアタフタするリーダー兼後輩に、「あいつに限って、その心配はねぇから安心しろ」と、声をかける。すると、ハァーー、と大げさなため息を吐いて、「それはそれで、ちょっと複雑です。」と、困ったように笑った。

「こう、頑張って直接的なこと言っても、顔にハテナ浮かべてスルーですし?」
「昔っから、アキはそうなんだよな。おかげでこっちは苦労したぜ。」
「最近なんて?荒垣先輩にベッタリで、ぜんっぜん構ってくれないですし?」
「あぁ......?嫉妬かそりゃ。」
「ええ、そーですよ!!」

 ダァン、とカウンターを拳で叩く。まだ量の入ったラーメンの器が、少しばかり浮いた気がしたのは気のせいか。両肘をカウンターに付き、両手の甲に額を乗せ、更に深くため息。使えない上司に悩む部下かお前は。(まぁ、あながち間違いではないが。)

「一言目にはシンジ、二言目にはシンジ、三言目にもシンジ!もう、いっそシンジって名前になりたい!!」
「な、なんだそりゃ......。」

 そうは言うものの、アキは自分を前にすると、一言目にはアイツ、二言目にはアイツ、三言目にはアイツ、となる。アイツとは、この場合もちろん、現在自分の隣で、顔を上げてラーメンのスープをすする彼女を指す。(全部飲む気か。太るぞ......。)

「全く、お前らときたら......そういうところはそっくりかよ......。」
「なんか言いました?」
「......まぁ、いい。」

 たしかに、あの男の鈍さ具合は問題だ。彼女の場合、あの男がああであるおかげの弊害、といっても過言ではない。無自覚で独占欲強いとか、それこそドン引きだぞ、アキ。今日なんて、なんだあれは。

「お前さえよけりゃ、いつでも当て馬になってやるさ。」
「いやいやいや、そんなつもりは!それに先輩のことですし、多分そんな風には思ってないと思いますけど......。」
「んなこたぁねぇよ。」

 俺たちが出ていくときのアイツの顔、見てなかったのか。なかなかの傑作だったぞ。


 食事を終え(彼女はというと、見事な完食っぷりを披露してくれた)、会計につく。当たり前のように彼女は、タルタロスで得たお金を入れた財布を取り出し、「これも、S.E.E.Dの絆を深めるための大切なコミュニケーションですから」と、ニンマリと笑って二人分の会計を済ませた。引き戸形式となっている扉を、音を立てて開けてみれば、

「あれ、雨......。」



レインマン

Make me forget everything .



「先輩、傘持ってます?」
「んなもん、あるわけねぇだろ。手ぶらだ手ぶら。」
「ですよねぇー......。あれ?」

 少し先の軒下で、複数本の傘を持つ、よく見慣れた人物。何やら本を読んでいるようだったが、こちらに気が付くと、パタンと片手で閉じて近づいてきた。

「メシを食うならここあたりだろうと思ってな。」
「傘、持ってきてくださったんですか!?」
「ああ。お前たち、持っていかなかっただろう。」

 自分と彼女へ、手渡されたそれぞれの傘。もちろん、彼の物もきちんと携えている。

 こういうところが、なぁ。お前は本当、気がきかねぇな。こういう場合、持ってくる傘は二本でいいんだ。俺用の傘と、お前とコイツ、二人くらいは入れる、でっけぇ傘な。そもそも、だ。俺だけだったら、絶対持ってこなかっただろ。そこんところの意味、わかってんのか?

「まぁ、いいか......。」
「なんだ、シンジ?」
「なんでもねぇよ!」

 音を立てて、傘を開く。さも当たり前のように、彼女を真ん中にして、彼が右、自分が左へ並び、歩き出す。しとしと響く雨音と、三人の靴音。水たまりを避けようと、うさぎのように飛び跳ね、はしゃぐ彼女。それを優しく見下ろし、彼女の話に耳を傾ける幼馴染の姿。

 ......まぁ、たまにはこんな夜も、悪くない。だが次は、ないからな。そう心の中で悪態を付き、普段より若干緩めの、二人の歩調に歩調を合わせ、家路についた。








ほんのり真ハム←荒で。先輩は、新書を読んでるイメージ。ハム子は真田先輩の影響で大食いに。多少太っても、先輩と朝ランニングすれば大丈夫だよ!(にっこり)←
meg (2012年5月14日 16:54)

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