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「ルキナー、次の作戦でのあなたの立ち位置について話が……」
 暖かい日差しが降り注ぐ午後、野営地の一角にある大きな幹を持つ木の裏に座る彼女の姿を確認して、声をかける。だが、返事がない。珍しい、普段の彼女なら、名を呼べばどこからだって現れるのに。
「ルキナ……?」
 距離を詰めて行って、ひょい、とその顔を覗く。あっ、と声を出しそうになって、慌てて口に手を当てた。
(ね、寝ちゃってる……)
 葉と葉の隙間から、木漏れ日が降り注ぐ。なるほど、これは気持ちがいい。誰だってここに座ってしまえば、ついつい夢の世界へ誘われてしまうことだろう。
(ふふ、眉毛下がってる)
 いつも緊張した面持ちでいる彼女も、こうしてみると存外、あどけなさを残しているものだ。そう、かの人と同じように。
(二人共もう少し、あたしに似たところがあってもいいと思うんだけど)
 確かに弟の方は、中身は自分に似たとは思う。でも外見は、青い髪も青い目も、どちらも彼に似てしまった。別に嫌というわけではない。ただ四人並んだ時に、「二人共お父様にそっくりですね」と言われることが、少しだけ、ほんの少ーしだけ、寂しいのだ。
「風邪ひくわよー、ルキナ」
 羽織っていたローブを脱いで、そっと彼女にかけてやり、優しく頭を撫でる。やだ、触り心地もそっくりなのね。
「ん……」
 ごそりと揺れる、彼女の体。起こしちゃったかな、と少し構えるも。その気配はない。ほっとして、しばらくこのまま寝かせておいてあげようかな、と頭から手を離す。そうして音を立てないよう立ち上がろうとした、その瞬間。
「――いや、行かないで……。お父様、お母……さま……」
 そう言って、涙が一筋、つうと頬を伝った。驚いて、慌てて拭う。さらさらとした、滑らかな肌。もうそれ以上は落ちてくる気配はなかったけれど、その長い睫毛は涙でしっとりと濡れていた。
(夢の中でまで、我慢しなくていいのに……。)
 未来の自分が恨めしくなる。突然両目から彼とあたしを失い、幼い弟一人を残されて、どれだけ心細かったことだろう。どうして生きていることができなかったんだろう、なんて思うものの、今の自分だって、作戦が失敗すれば命を落とす可能性が高いことに変わりはない。そうして彼女に危険が及べば、やっぱり自分は、命を賭して守ろうとするだろう。そうだ、大切なのは、そうならないよう最大限の努力を行うことだ。
 地面に放り出された、少女らしい繊細な手を取って、両手で包む。そう、確かにこの今、変わらないことが一つ。

「あたしはここにいるよ、ルキナ」

 時は違えど、ここには確かにあたしたち家族が存在していること。あなたはあたしの大切な娘であること。どうか、忘れないで。


My dear Daughter








21章後の二人に泣けた……。お父様大好きだけど、お母様のことも、きっと大好きだったはず。
meg (2012年5月24日 10:51)

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