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ポリポリポリポリ

パリッ、パリパリパリッ

ポリポリポリポリポリポリポリポリ

パリッ、パリリッ、パリパリリッ


「あの、えーっと……。母似香ッチにゆかりッチ?」
「「なによ。」」
「俺ッチの勘違いなら謝ります。でも、今日の夕食……確かワックだったって、言ってなかったっけ?」
「「それが何?」」
「……いいえ」
 分寮二階に設けられたテーブルには、ずらりとスナック菓子が並べられている。向かい合わせとなって座り、それらを一気に平らげ進めているのは、学内でも1、2を争う人気を誇る、同学年の女子二人。そのうちの一人、斗南母似香は、確かに女子にしてはよく食べるほうだ。この間だって、ラーメン"はがくれ"にて特製大盛りとチャーシュー丼を汁も残さず綺麗に平らげたという話だ。対してもう一人、岳羽ゆかりは、母似香とは違い、普段から体重に気を使い、スナック菓子なんて滅多に食べない。食べたとしても半分以上は残し、自分や先輩といった男手に押し付ける始末。(まぁ、もらったものはありがたくいただくが。)
「め、珍しいッスよね~、二人が……ていうかゆかりッチがこんなに食べるの……」
「うっさい順平」
「ちょっと、なんでそこでわたしは除外なのよ」
 ビシィッ、と、右手人差し指で人を指さしながら、絶えず左手はスナックを口へ運ぶ。袋がカラになれば、どちらともなくビニール袋から新たにスナックを取り出し、開ける。

 事の発端は、その夕食でのこと。年頃の女子二人が夕飯を囲んだ際に、口から出てくる話題はそうもちろん、お互いの彼氏について。
「……今日さ、見ちゃったのよ」
 それぞれのトレーを持って席につき、ぱくりとシェイクに刺さったストローを口にした途端、重いため息と共に、目の前に座った彼女が口を開いた。
「湊、告白されてた」
 実習室から体育館へと結ぶ渡り廊下を柿の木のある方へ進み、丁度草木が生い茂る小さな庭園に出たところ。草木が人を覆い隠すその場所は、恰好の告白スポットとなっていた。丁度部活上がりだったというゆかりは、聞き覚えのある声についつい興味が首をもたげた。向こうには見えないよう、細心の注意を払って覗いてみれば、自分のとてもよく知る人物と、下の学年の、これまた何度か見たことのある女生徒が、向かい合って話していた。
「ほら、あんたも手伝ってる生徒会の、眼鏡かけた綺麗な子」
「ああ……千尋ちゃんか」
 伏見千尋。一年生で、生徒会会計を務める女の子。内気で、周りの意見に流されやすい子っぽいなぁというのが、第一印象だった。正直あまり話をしたことがない。基本的にわたしは風紀委員である小田桐君寄りにいて、どちらかというと、湊の方が彼女のいる会計寄りにいた。
 なんとなく、彼女が彼に好意を抱いているということは予想がついていた。活動終了後、真っ赤な顔をして下校に誘う彼女を見れば、誰だってそう思うだろう。逆に湊といえば、誘われれば断らないし、感情を表に出さない、だからわからない。何度か彼についてメンバーに聞かれはしたが、その度に「どうなんでしょうね」とはぐらかし続けた。
「で、湊はなんて答えてたの?」
「わかんない」
「そっかー……って、え"、な、なんで!」
 どうせ「断ってた」的なニュアンスの答えが返ってくるものと思っていた。「好きです」その言葉を聞いた瞬間、その場から逃げだしたもの、という彼女の返答に、ああそうかと合点がいく。そうだった、彼女は混乱するとその場を逃げ出すというスキル持ちだった。自分だって何度、彼女に置いて行かれたことか。巌戸台駅前商店街で珍しく遭遇したと思ったら、その瞬間腕を掴まれ、すごい勢いでここに連れてこられた、というわけだ。
「別にさ、隠してるわけじゃないのよ、アイツと付き合ってること」
 ワイルダックバーガーに噛みつき、もご、と顎を動かす。もぐ、もぐ、と噛みしめるように顎を動かし、ごくんと、飲み込む。
「そ、そりゃあたしだって、その、恥ずかしいというか、周りには言ってないけど……。あたしに対する態度も、他の女子に接する態度とそう変わらずでさ」
 あたしはこーんなに、意識してるっていうのに、とため息を吐く。その割には、お互いの部活がない日なんかは毎回一緒に帰ってるし、ゆかりは気が付いてないだろうけど、授業中湊ったらゆかりのことずっと見てるんだけど。というのは、心の中に秘めておくことにする。その点、先輩はいいよね、わかりやすいもん。その言葉に、こちらの起爆装置のスイッチが作動した音が鳴り響いた。
「……そんなことない」
 手に持つシェークの入った紙の容器が、べこりと音を立ててひしゃげる。辛うじて、中身は飛び出さなかった。
「も、母似香?」
 もうこれまでに何通手紙を下駄箱にいただいたか、数えたくもない。よく少女マンガで、かっこいいヒーローが下駄箱を開けるたびにファンレターが崩れ落ちてくるという場面を見てきたが、自分にそれが起こるとは思わなかった。もちろん、手紙の種類は正反対。放課後には体育館裏にだって何度も呼び出された。もちろん、憎しみの告白のため。そして彼氏であるかの人には、漫画通りの意味合いの手紙がわんさか届くし、愛の告白のため体育館裏にだって何度も呼び出されている。
「分かりやすいったって結局公表してなければ、相手はいないと期待を持たせることと同じなのよ!」
 だんっ、と、力任せにシェークを机の上に叩きつける。隣に座る一組のカップルが、ギョッとしたような顔でこちらを見た。
「そ、そう、そうなのよね!」
 対してゆかりは、ようやく同志に巡り合えたという歓喜からか、いつもより饒舌となり、彼へ抱く不満が一気に噴出しだす。
「おかげでファンクラブのメンバーなんて増える一方だし!」
「放課後あたしが部活な時は誘いに来た女子と帰ること多いし!」
「そのくせ自分はあまり愛想をふりまくんじゃないとか怒るし!」
「部活の男友達に下校誘われようもんならすんごい勢いで睨んでくるし!」
 腹立つわよね~~! と声を揃えて頷き合う頃には、店内の空気は二人を除いて非常に気まずいものになっていることに、気がつく気配がまるでない。ひと段落して、とりあえず目の前に広がるバーガーとポテトを胃の中へかき入れる。口直しとして最後にシェイクを流し入れ、ナプキンで口の周りを拭う。通常ならば、ここでお腹いっぱい、ごちそうさま。に、なるはずだった。
「……満足した?」
「全然。胃の中から沸き立つモヤモヤってゆーの? が、消化されてない。」
「そういえば今日は土曜日、青髭の特売日よね。」
「チョコとかスナックも、安くなる日だよね。」
 そうして分寮に戻った二人の両手には、溢れかえるほどの菓子が詰め込まれたビニール袋がぶら下がっていたことは、想像に容易い。

   *

「なぁ、有里」
「なんですか、先輩」
「なんというか……寮から不穏な空気が漏れ出ているのは、俺の気のせいか」
「奇遇ですね、丁度俺もそう思っていたところです」
 出入り口の前、立ちすくむ男二人。今この扉を開ければ、間違いなく死神と同じか、はたまたそれ以上の何かに襲われる、そんな気がしてならない。
「……そんなところで二人立ちすくんで、何をしているんだ?」
 後ろから聞こえたのは、月光館学園高等部生徒会長であり特別課外活動部部長。「入らないのなら先に入るぞ」とドアノブに手を掛ける彼女に、二人して必死に止めに入る、が、間に合わなかった。



fly to the Fire

おかえりダーリン。ビンタにする?往復がいい?それとも……



 その後の彼らに降りかかってきたものについて聞こうものなら、
「この世には、知らない方が幸せでいられることの、一つや二つはあるもんなんだぜ……」
 と、真っ青になって体を震わせ、それ以上何も語ろうとはしなかったという。








彼らに降りかかったものとは、以下のうちどれでしょう。
①母似香とゆかりの無視攻撃+美鶴による処刑
②強制深層モナド10往復
③ブースター付きマハガルダイン+マハブフダイン
④全部
答えは、CMの後!(個人的には④。)
meg (2012年6月 8日 15:16)

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