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「あら、ルフレさん。武器の手入れですか?」
 最近、戦場にて剣を手にすることが増えた。どちらかというと魔法の方が得意だが、急な攻撃に対応するには、剣の方が何かと便利なことが多い。だったらサンダーソードはどうだろうというフレデリクの助言に、なるほどそれはいいと、丁度天幕に取りに来たところだった。
「い、いや……確か誰もつかってないサンダーソードがあったような気がして……」
「ああ、ありますよ。こちらですね」
 そう言って、それまで自分が探していなかったほうの剣立てから、埋もれていた一振りの剣を抜きだした。刀身がまるで絵に描いた雷の様に鍛えられた剣。相当の魔力の持ち主でないと、その効力は発揮されない得物。
「そう、それそれ! ……あ、ありがとう、詳しいのね!」
「ええ、武器庫の整理整頓は、趣味みたいなものですから、詳しくなっちゃいましたね」
 あまり自慢できない趣味ですよね、そう肩をすくめて眉を下げる彼女が、可愛いと思う。それでいて、戦闘中はペガサスに跨り、蝶の様に舞い蜂のように刺す。行軍中や休憩中でも、皆への気配りは忘れず走り回る。誰よりも素敵で、誰よりも女性らしい人。髪は長くサラサラで肌も白く美しく、スタイルも抜群。猫っ毛で肌は太陽でそこそこ焼け、スタイルは平均そのものな自分とは大違い。思わずため息が出るくらい。
「……ね、ルフレさん。今大丈夫かしら」
「へぇっ?」
「あたし、この軍に入ってから、ルフレさんとお話ししたことがあまりない気がして。ちゃんと話してみたかったんです」
 彼女がこの軍に加入したのは、エメリナ様を奪還するために動いていた、丁度二年と半月前のこと。それよりも前に、彼女の話は方々で耳にしていた。才色兼備、ペガサス騎士団創設以来の天才騎士。そして、ずっと恋い慕う相手がいる、ということ。「その相手って実は、お兄ちゃんのことなんだよ」と、慕われている本人以外の誰もが知っているの、と楽しそうに笑うリズを思い出される。実は、誰にも言っていなかったものの、その頃にはすでにクロムとお互いの想いを伝えあっていたから、とても複雑な気持ちで「そう、会ってみたいな」と無難に返答したのみとなっていた。
 これがこうして、現在彼女の目の前に、恋い慕った彼の妃となった、憎き恋敵である自分がおり、さらには話をしたいと申し出る。婚礼の儀の時、瞳を真っ赤に腫らした彼女の姿を忘れはしない。
「えっと……ティアモは、その……」
 記憶を失っている、素性の知れない自分が、会って間もない彼の心を奪ってしまった(自分で言っていて恥ずかしいけれど、でも間違いではない、と思いたい)あたしを、あなたは心底嫌い……というか、憎いのではないの? と言いたい気持ちをどう表現したらよいのかわからず、言葉に詰まる。
「……ええ、すっごく悔しかったです」
 えぇっ? とまた素っ頓狂な声を上げてしまう。頭で考えていたことは、何一つ言葉に出ていなかったはずなのに。意外と考えていることが顔に出るタイプなんですね、と、これまた綺麗な顔で笑った。
「ルフレさんに悔しい、んじゃなくて、あたし自身に悔しかった。恥かしくて何一つ行動に移せなかった自分自身が、すごく情けなくて、悔しかったんです」
 彼は王族で、彼女はいっぱしの見習い騎士。身分が釣り合うはずもないと、いつか彼の目に留まればと、そればかり思って自分自身を高めた来た……つもりだった。でもそれはただの言い訳でしかなかった。
「クロム様があなたを選んだと聞いて、もちろんたくさん泣きました。でもすごく、納得もしました。そんなあたしが選ばれるはずなかった、と」
 そんなこと! と言うあたしを制して、首を振る。誰とも分け隔てなく接し、一番に誰もが生き残ることを最優先とし、自ら戦場に立って弱きを庇いながら戦う。彼は強い。だからこそ、必要だったのは同じく強い者ではなく。彼の手が届かないところを補い支え、そして彼すらも支えてくれる、半身となる誰かだと。
「あたし、今でもクロム様のことが好きです」
 彼が近くにいれば目で追うし、戦闘中は彼の為になればと剣を振るう。ただ、以前と違うのは、

「……あなたのことを愛する、クロム様のことが好きです。」



Ti amo

だから、あなたのことももっともっと、知りたいんです。



「クロム様がもし浮気するようなことがあれば、あたしに相談してください。持つ知恵全てを持って、制裁しましょう?」
 そう言ってにっこり笑う彼女を見て、彼女だけは敵に回したくないなぁと思いつつ、早速、今度いつお酒を飲み交わそうかと思いを巡らすルフレであった。








ティアモさんはクロム様もだけど、女友達をすごく大事にする人なんじゃないかなぁと思う。
meg (2012年6月 8日 17:30)

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