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::CAUTION!::
志良さんのお書きになった、
「ワームホール開発中」という素敵小説の続きとなります。
志良さんのお宅に掲載されておりますので、
先にそちらをお読みいただいてからお読みいただくことを、お勧めさせていただきます。
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 予め与えられたラインの上にきちんと整列させるように、さらさらとペン先を動かしていく。
 耳元には真っ白の小さな機械をはめ込んで、メロディーを直接体内へと流し込んでいた。ヘッドホン派だった私が、実はイヤホンの方が疲れないだとか、より一層体に入ってくるだとかで効率が良いと知ったのは、つい最近のこと。流れていたのは、どうしてもリスニングで点を落としてしまうと嘆く私に、じゃあこれをどうぞと彼女が貸してくれた洋楽。最初こそ失礼ながら煩いと思っていたそれが、今ではもう耳に馴染み、むしろ別のアルバムも貸してくれと頼む始末となっていた。
「……よしっ!」
 きゅっ、と力強く紙面を押し、離す。これで明日の試験対策も万全だ。後は良い結果となるよう神に祈るのみ。(まぁ、神様がいるなんて、信じちゃあないんだけどね。)
 ふと壁に掛けられた時計を見やる。現在、二十三時半。私のものでない携帯電話の着信音が鳴りはじめるが早いか、おっきな瞳に涙一杯ためて私の名を呼んだ彼女を部屋から追い出し早十分。確か、一月ぶりだとか言っていた。
(どうせまた、痴話ゲンカで終わるんでしょ)
 惚気は間に合っている。これまで何度彼女に言い聞かせてきたかわからない。
 恋人同士の喧嘩というものは、大体にしてそうであることが多い。まぁ彼女の場合は、彼氏の朴念仁ぶりが原因となることも多いのだが。しかし結局は、「やっぱり先輩が大好き!」に帰結するわけで。
(戻って来る前に、ベッドに入っちゃおうかな)
 昼間はきちんと聞いてあげているのだ、それで良しとしてほしい。今日はもう疲れているのだ、ほら明日だって試験だし。まぁ、それは確かあの子も一緒なんだけど。というか、こんなに私は真面目にやっているのに、それでもあの子の足元にも成績が届かないだなんて、やっぱりおかしい。もし本当に神様がこの世にいるのだとしたら、私は心の底から叫んでやりたい。えこひいき反対! と。
 背伸びをして、席を立つ。そうと決まればさっさと寝る準備をしよう。冷蔵庫に飲み物を仕舞って歯磨きをして、後でご褒美に食べようと思っていたモンブランは明日にしよう。
 うん、さぁ準備万端。私の寝床は二段ベッドの上のほう。決して高い場所が好きというわけではない。梯子をよじ登り、掛布団を捲って体を滑りこませ、瞼を閉じて、さぁお休みなさー……――。
「ゆかりぃいっ!」
 ……ワンストライクッ! 騒騒しく扉が開け放たれる。危なかった、ついいつものノリで「もうちょっと静かに入ってきなさいよ」と苦言を呈すところだった。慣習とは恐ろしいものである。
 しかし、まだだ、まだ大丈夫。瞼を閉じて、寝息を立てれば大丈夫。
「お願いゆかり、助けてーーっ!」
 ツーストライクッ! きっとばれない、大丈夫、だいじょうぶ。ここは耐え凌ぐのよ岳羽ゆかり! 待てばそのうち明日にしようと思い直してくれ……。
「パスポートって、どうやってとるの!?」
「はぁぁああっ!? ちょっと、こんな時になに言ってんの!」
 ホーーームランッ!
 あ、と気が付いた時にはすでに遅し。掛布団を思いっきりめくり上げて、地上にいる彼女を思いっきり上から見下ろす私がいた。

 *

「一般旅券発給申請書……これは、窓口でもらってその場で書くやつだから、予めの準備は必要ないわね」
「ふんふん」
「で、必要なのが、戸籍謄本、住民票の写し、証明写真、それで保険証と学生証。後の三つはいいとして、戸籍謄本と住民票がちょっと面倒ね。保護者の確認が必要になるかもしれない。すぐに連絡とかとれるの?」
「う、うーーん……。大丈夫だとは思う、けど、理由がな……」
「海外にいる彼氏に会いにーなんて、普通は駄目って言うわよね」
 だよねぇ、とため息を吐く。この子は隠し事が苦手だ。人の為になる隠し事はうまくこなすくせに、自分のことになるとてんで駄目なのだ。曰く、後ろめたい気持ちが勝つ、のだそう。よって彼女企画によるサプライズは最後まで成功した試しがない。まぁ、根が素直な分、こちらが仕掛けるサプライズはいつだって大成功なのだが。
 ふいと机の上に乗っかったカレンダーに目をやる。うちの大学では、来週からが夏休み。この子の大学も、確か似たような日付からだった気がする。だったらなんら問題ないだろう。
「わかったわかった、もし親戚の方に電話するってことになったら、私が一言添えてあげるわよ」
 ついでに私も一緒に取ろうかな、とごちる。本当? と明るく照らされた笑顔は一瞬で沈静化。え、何よ、なんか文句あるの? と怪訝な顔をすれば、「有里君と旅行でもするの?」と逆に怪訝な顔を返される。
「は、はぁあ? な、なんでそこで湊クンの名前が出てくるのよ、ついでよついで!」
「あーーーっ、なんか親しげな呼び方になってる! アヤシイ、アヤシイ!」
「ちょ、おばか、そそそんなわけないでしょ! 大体母似香だってすでに先輩が……っ」
「ヤダヤダゆかり、彼氏なんて作っちゃやだーー!」
 万が一いるとするならば。ほら、これ見てよ神様、この子どう思う? ねぇ、不公平だと思わない? 素敵なものいっぱい持っていて、さらにそれ以上欲しがるの。私だって一つくらい、いいものもらったっていいじゃない。
「もー、さっさとパスポート取って、さっさと先輩のとこ行っちゃいなさい!」
「ゆかりったらひどーーい!」
「ちょっと声大きいっ! 今、深夜だったら、んもーー!」
 大体これが私の日常。こうして夜は、更けていく。

 後日、キラキラ笑顔でパスポートを取得してきた彼女の横には、結局翌日の試験で精彩を欠いた、私のげんなりとした姿があったとさ。



ワームホール開通
五秒前









志良さんの書かれたお話がとてもかわいらしく素敵だったので、ついつい続きを書かせていただいちゃいました...!ご覧の通り、わたしはゆかりッチが大好きなのです。
meg (2012年11月 8日 09:54)

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