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メグさんは、
「深夜の坂道」で登場人物が「感じる」、
「落ち葉」という単語を使ったお話を考えて下さい。

診断メーカー「恋愛お題ったー」より
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 酒を飲むと陽気になり、普段は絶対にしないことをやりたがるようになるものだ、と私は思う。
 この時もまさにそうだった。真冬の深夜であるこの時間、吐く息はすべからく真っ白となるべきで、もちろん私の酒気孕む吐息も例外ではなく、二、三度目に吐いたそれが空気の中へ溶け行くころ。坂道を下ろうと一歩足を踏み出した私は、隣りを歩く彼にある提案をしたのだ。
 ディルムッド、しりとりをしよう。
 今思うと、どうして私はそこでそれをしたいと思ったのか、謎で仕方がない。どちらにせよ、出来る事ならば今すぐその場へ向かい、やめておけと殴ってでも言い聞かせたいところである。
 残念なことに、私と同じか、もしくは私よりも酒が入っているかもしれない彼、ディルムッドは異を唱えるはずもなく、むしろ喜んでと大きく頷いて見せた。
 通例通り、"しりとり"の"り"の字から始まったそれは、最初こそ大人しく、また微笑ましい進行を見せていた。しりとり、りす、すいか、かめ、めだか……。
 しかし五分ほど経過した頃だろうか。彼が、決め技に訴え出したのは。
「……おう」
「うすあお」
「おいすたぁ」
「あさがお」
「お……おおみそか」
「かお」
「お、お……」
 わざとだ。同じ単語が私に回るよう、わざとそのようにあてはめているのだ。
 思えば、かつて子どものいたことのある彼のこと、こうしたしりとりなど日常茶飯事であったに違いなかった。こういった絶妙なさじかげんなども、得意中の得意なのだろう。
 "お"から始まる単語など、他にもたくさんあろう。しかし、酒の所為で言語力が普段よりも低下している私の思考回路は、なかなか釣り餌に魚を掴ませることができず。意味のない堂々巡りを繰り返すばかりだった。
 突如、うんうんと唸り声をあげる私の肩を彼はトントン、と叩き、人差し指を天上へ向かわせる。
 導かれるままに顔を上げたその先で、瞬いていたのは見覚えの形を形成させる、三つ星。
「ああ、オリオ――」
 ん、と言いかけて、慌てて両手で口を噤む。かわりに、じろりと睨みつけてやった。
 彼は、ひっかからなかったか、残念と、肩を竦めて苦笑してみせた。
「貴方はいじわるですね」
「なに、あまりに苦しそうだったのでな。ここは一思いにやってやったほうがお前の為かと親切心でしたまでだ」
「世迷いごとを……」
 大きなお世話です、と視線を元へ戻し、再び思考を巡らせる。些か、頭の中がさきほどよりもクリアーになった気はする。しかしだからといって、すぐに浮かぶわけでもなく。結局はぶつくさと"お"の単語を繰り返しながら足を進めるのだった。
 坂の中腹まで降りてきただろうか。くすくすと彼は相変わらず私の隣で笑う。
 今に見ていなさい。素晴らしい答えを突き返してやる。それこそ、また再び"お"で終わる言葉に繋がらない、最高の答えをだ。
 ふと、足元で音を鳴らすある存在に気が付く。色を変え、秋の訪れを告げたそれだ。それは今度は場所を変え、私たちに冬の到来を知らしめる。
 足を止め、ぎゅっと爪先で地面に押しつける。痛い痛い、とまるで訴えるように、カサカサと鳴いた。
「……おちば!」
 これぞまさに天啓。神が、私に勝てと告げている。
 それに、"ば"から始まって"お"で終える言葉など早々にないだろう。どうですディルムッド、私はまだまだ負けなどしませんと、顔を彼へ向ければ、お見事とばかりに手を叩いてみせた。そしてその笑顔のまま、彼は戦いを続行させた。
「ばいかうつぎ」
 同じく思考回路を酒で酔わせているはずなのに、こうもぽんぽんと単語を引き当てていく彼に、少しばかり腹が立つ。
 いいだろう。この戦い、なんとしても打ち勝って見せる。
「ぎがく」
「くい」
「いすかんだる」
 ははっ、と彼は笑みを零す。人名は反則ではないかと言うのだ。
 そんなことはないでしょう、それらだって立派に単語です。それに、ルールとして人名は禁ずるとは誰も言っていない。
 口を尖らせると彼は、わかったわかった、お前の言うとおりだと破顔させる。
 ……その笑顔が癪に障る。そういえばしりとりを始めてから一度として、彼の答えに詰まる顔を見ていない。
 私の闘争心が、牙をむく。
「るっこら」
「らんどせる」
「るびぃ」
「いんぐらんど」
「どら」
「らんすろっと」
「……とうきび」
 おや、一瞬彼の顔色が変わったか?
「びくとりあ」
「あし」
「しろう」
「……うぇいばぁ」
「? あーちゃぁ……」
「アルトリア」
「はい?」
 応えて、あ、と恥かしくなる。人名も良しと言ったのは私だ。だから、それは私の名ではあるが、しりとりのために用いられた単語だ。
 コホン、と小さく咳払いを落とす。"あ"で始まる単語だなんて、もはや一つしか思い浮かばなかった。
「……あーさぁ」
 自分で自分の名を引き合いに出すとは、些か恥ずかしいように感じる。必然的に、そうと告げる声が小さくなった。
 期せずして、ここまで"あ"で始まり"あ"で終わる単語が続いてきたわけだが。さて、いったい彼はどうでる。
「アルトリア」
 しかし、彼の口から出た言葉は、先程答えに出した私の名前。
 それはいけない、反則だ。貴方の負けですよと、喜び勇んでそう口にしようとしたその時――。
「あいしている」
 視界が黒いもので覆われた。ほんの二か所のみ、橙色の光が煌めいている。
 いや、ものではない。彼だ。すぐ目の前に、彼の顔がある。橙色の光は彼の目だ。獲物を捕らえたとばかりに、光を放っている。
「愛している」
 繰り返される、その言葉。同時にぽつりぽつりと降り出す口づけの雨。
 頬を掠めるぬくとい風は、少しばかりブランデーの香りを孕み、私の意識を絡め取っていく。

 往来――苦し紛れに口にしたその言葉は一瞬のうちに露と消え、私と彼の居るその空間のみが、白く分厚い壁に、覆い尽くされていった。



シンプル・ワーズ









恋愛お題診断なるものの存在は存ていましたが、うっかりもえたのでがががと書いたもの。これ、いい練習になりますね...。
meg (2012年11月21日 09:38)
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