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Möbius - 04





 口を開いたのは、彼...。デスであり、そしてわたしと共にあった、一握りの"ヒト"の部分。  

『人は、どんなに絶望を見せられようと、最後まであきらめず、もがき続け、そして最後に、希望を勝ち取る...。』

 カードを持たない方の手で、わたしの右手をすくい上げる。右手の人差し指には、淡く光る指輪。

『そのことを僕に教えてくれたのは、母似香ちゃん、君だ。』

 指輪にキスを、1つ落とした。



 ―――わがままを、言っていいんだろうか。

 世界を守り続けるという大役を放り出してまで、このわがままを、叶えてしまってもいいんだろうか。
 わたし達の手で回避し、わたし自身を持って封じた滅びの危機。それを、別の誰かに託してまで、わたしは幸せになってしまってもよいのだろうか。

「......帰り...たい...。」

 これまで生きてきた17年。たった、17年。その中で、みんなと過ごした1年は、何にも代えられない、本当に幸せな1年だったから。その1年間を生き続けられるなら、この先にある、みんなの未来を守れるなら、わたしの未来なんて、いらないと思ったから。

 でも、違う?みんなの幸せな未来に、わたしは必要ですか?

 すると、彼の手の中にあったカードが、1枚1枚浮かび上がり、わたしを取り囲むように回り始めた。中でも、あの時最後に消えた"星"のカードが、わたしの目の前に進み出、大きく光り輝く。まるで、早く帰っておいでと言うように。......ああ、わたしはこの"星"を...この人を、知っている!

「...うん、わたしも...あいたい。」

 少し骨ばった、力強い温かい手とか、わたしの名を恥ずかしそうに呼ぶ、艶のある優しい声とか。全部、そう全部。もう一度だけ、なんて嘘。ずっと、これからもずっと。

「あいたい...かえりたいよ、あき...ひこ...っ!!」

 ぱぁん、と、なにかが割れる音がした。声にならない声をあげながら、目の前に在った"がしゃどくろ"は、ズズズ、と崩れるように、闇に同化していく。

『君ノセイデ、再ビ世界ニ滅ビハ訪レル...コノ選択ヲ後悔スル日ガ、君ニ必ズ訪レル...!』

 それまで後ろに控えていたテオが、わたしを闇から守るように、一歩前へ出る。

『イザ...ナミ...。聞コエルカイ、僕ダ。イザナミ―――!!』

 それが最後の断末魔となり、それはそのまま闇へと溶けていった。また、それと同時に、過去へ還る場所であったのだろう、あの光も消えていた。

 ふたたび世界はしん、と静まり返る。気が付けば綾時君もいなくなっていて。わたしの周りには、前方にテオと、22枚のカードが浮遊するのみだった。






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meg (2012年4月11日 15:47)

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