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Möbius - 08





「に、にせんじゅういちねん!!?」

 思わず声を大きく上げてしまい、日誌?みたいなもので、軽く頭をはたかれた。(全然、痛くなかったけど。)

 そ、そうか、たしかに、あの場所に"堕ちた"のが二度目なら、わたしは17歳を、もう一度やり直したことになる。単純に数えれば、あれから同じく一年たっていても、不思議じゃない。あれ、ということは、わたしは今18歳であると公言すべき?どちらにせよ浪人は確定だなぁ、とか、どうでもいいことばかり冷静に頭の中を巡る。

「もう仲間には知らせたのか?」

 その言葉で、ようやく自分の置かれた現状を、より深く思い出した。彼から聞いたところ、わたしはあの時、肉体的に1度死んでいるということ。でも体は、見ず知らずの不思議な男(多分テオのことだと思う)に、持ち去られたとのこと。いつか、必ず帰ってくる、ということ。

 そう、帰ってきた。わたしはここに、帰ってきた。今更ながら、目頭が熱くなる。震える声で、まだ知らせてません、ちょっと頭が混乱していたみたいで、と絞り出す。慌ててスカートのポケットに手を突っ込むも、そこにあるはずの携帯電話は、なかった。それもそうだ、一年も経っていれば、とっくの昔に解約されているに決まっている。

「学校やお前の親類には、桐条のお嬢さんが、うまく話をつけておくといっていた。死亡届けも出さない、と。...そういえば今日は、月高の卒業式だったな。」

 卒業式...。そうか、ゆかりや順平...みんな卒業か。わたしも、卒業...ということに、なってそうだな、美鶴先輩のことだから。あーあ、みんなと一緒に自分の手で、卒業証書、もらいたかったな。まぁいいや。明彦に、卒業証書授与ごっこしてもらおう。そう、明彦に...。

.........。

「あ、あのっ!」

 明彦は、と言いそうになって、口ごもる。

「ええっと、その...真田、先輩は...。」

 尻つぼみに、声は小さくなっていく。もう去年あの日に卒業しているわけだから、とっくに寮だって出ているはず。どの大学に進学したのか、とか...そういえば全然知らない。そもそも、携帯電話が手元にない以上、ゆかり達に連絡をとることだって、至難の業だ。この状態で、高校だって行きづらい。もう頼みの綱は、目の前にいる、彼だけだ。

「ああ...。」

 そう言ってわたしをチラリと見、ちょっと待っておけとおもむろに真っ黒の携帯電話を取り出して、ポチポチと打ち始める。動いていた指先が止まってしばらくすると、すぐに携帯のバイブが鳴る。再び指を動かし、パチン、と携帯を閉じて、一言。

「よし、行くぞ。」

「あ、はい。......って、え!?」
 返事を待たず、彼は署長らしき人物へ、「少し出てきます。あ、車借りますね。」と声をかけ、さっさと歩いていく。背も高く足の長い彼に追いつくには、必然的に早足になる。
「あ、ああああああのっ!ど、どちらへ行くんですか!?」
 まさか、実は死亡届が出されちゃってるかもとかで区役所?それとも生還お披露目で月高とか!?(混乱が起きる姿が容易に想像できて、ゾッとする。できれば、仲の良かった子たちにだけ、知らせたいなーとか、ほら。)質問を受けた当の本人と言えば、口元にニヤリを笑みを浮かべて、

「ナイショだ。」

 バタン、とパトカー後部座席のドアを開けられ、ほらさっさと乗れと、促された。






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meg (2012年4月11日 16:03)

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