schema
http://monica.noor.jp/schema

Möbius - 09





 行きついた先は、名も知らぬ学校らしき建物の、出入り口に当たる大きな門だった。ここは一体どこでしょう、と声をかける間もなく、

「じゃあな」

 と、今まで見たことのないくらい、イイ顔で去っていく彼とパトカーを、ただ唖然と見守ることしかできなかった自分を、今更激しく後悔する。

 交番から車でおよそ、40分は走ったと思う。高速には乗ってなかったけど、バイパスは使ってた。その間、2言3言交わした以外(行先に関する話題は、当然全てスルーされた)、ほぼずっと、車窓の風景を眺めていた。わたしが、わたし達が、救った世界。わたしにとってはほんの少し前(とはいっても、体感的には1か月とちょっと前か)に、救った世界だけど、ここは、あれから1年と2ヶ月が経った世界。代わり映えなんて当然してないはずなのに、全てが、キラキラと輝いているように映る。当然、当時の仲間も皆、それぞれ環境の変化もあったことで、あの頃とはまた少し違った輝きを持っていることだろう。たった1年、されど1年。そう思うと、なんだか自分だけ、世界から置いてきぼりを食らった気がして、少しだけ、寂しくなった。

 あらためて、その場所の雰囲気を確認してみる。校門を行き来する人は、みな私服で、少し大人っぽい気がする。自分の制服姿が、逆に、ものすごく、浮いているくらい。当たり前だけど、チラチラ見られている気がする。

(は、恥ずかしい...!)
 本当、一体ここはどこなんだと、門に書いてあるだろう、建物名を確認した。
(○○...大学...?う、うわ、国立の超難関校じゃない...!!)

 もちろん、そういうこと以外に、この大学に心当たりはない。さぁ、まずは当時の交友関係から洗ってみようか。友人の中で大学生の人、といえば、神木さんしか浮かばない...が、彼はすでに、故人である。きゅ、と、少し胸が痛む。

 次は、今年度、大学に入学したであろう人物。美鶴先輩は、確か、留学すると言っていた気がする。記憶をなくしていた時に聞いた情報だけど、でも進路に関しては、記憶があろうがなかろうが、変わらない気がする。荒垣先輩は...目を覚ましたとは聞いたけれど、それ以降のことははっきりしない。でも、あれだけ学校をサボって、かつ休んでいた先輩だ。卒業日数が足りているはずがない。もし体調が許すようなら、留年ということで、ゆかり達と一年間一緒に授業を受けているんじゃないだろうか。

 と、ここまで考えて、途端に心臓の鼓動が大きく脈打ち始める。いや、わかっていた。わかっていて、わかっていないフリをしていた。

 真田...先輩、は、わからない。志望校や進路を聞かなかったわけではない。むしろ、教えてくれなかったのだ。ちょうどそれは、2年生の進路相談がある時期で、参考程度に聞こうと思った。(もちろん、それ以外にもいろいろな思惑があったわけだけれど。)先輩は、ただニヤリと笑って、

『決まっている、が、今は教えられない。それがお前の未来を揺るがさないともいえないからな。』

 無事決まったら、教えてやる。そう、言われていた。確かに、もし聞いてしまっていたら、きちんと志望先を決められなかったかもしれない。先輩と一緒に居たさに、自分の行くべき先を変えてしまっては、元も子もない。

 今わたしは、国立の超有名大学前に居る。先輩はあの時、センター試験を全科目受けていた。思い出せ思い出せ、何度も先輩の部屋に入れてもらったじゃない、あの時机の上に置いてあった赤本は、どの大学だった?

 頭の中をフル回転させ始めた時、上の方から、男の人のどよめき声が聞こえた。上の方からも、わたしの姿が確認できるのか...というか、真っ黒の制服だもの、目立つはずだ。ああ、どうしよう、すごく恥かしい。わたし、一体いつまでここに居ればいいんだろう。もしかして、大学内に入ってみるべきなのかな。

 それにしても、声の大きい人たちだ。窓辺で騒いでいるからだろう、こちらまで話している内容が筒抜け。

「ナニナニ?...ヒュ~、あの制服は月高生じゃん!しかも超かっわいい!」

 あ、あああありがとうございます、もうその言葉で十分なので、そんなに騒がないでください...。あ、ほら、これまで以上に注目を集めるようになっちゃったじゃないですか...!校門の陰になるように、少し場所を移動しみる。でも、そんな抵抗は、上から見下ろせる位置にある彼らからすると、特に変わりはないようで、声は止まない。ああ、もう本当、どうすれば。

「見学ってわけじゃなさそうだな。誰か待ってんのかな~?...おい真田!」

 .........。

 さな...だ......?

「お前、元月高だろ?声かけてみてくれよー、お前が相手なら誰も断らないだろうし...」

 呼びかけられているだろう、肝心の"彼"の声は聞こえない。

「も~~、アッキーは宝の持ち腐れしすぎ!!そんなんで女っ気ないとか、罰あたりだし!」

 まさか、ねぇまさか、ね...?ほら、期待しちゃだめだ。今まで期待して、裏切られたことなんて、一度や二度だけじゃない。でも、でも......もしかして、ねぇもしかして...!

 恥ずかしさのあまり伏せていた顔を、恐る恐る、上げる。そして声が聞こえてくる方へ、視線と共に、顔を上へ...。

「あ、こっち向いた!お~~い!」

 瞳に飛び込んできたのは、笑顔で手を大きく振る男の人達の集団ではなく、その人たちから少し奥の方から遠慮がちに覗き込み......灰色の目を皿のように大きくして、こちらを凝視する、よく知った、とても会いたかった、トレードマークである絆創膏のなくなった、誰よりも愛しい、その人の顔だった。






PREV | MENU | NEXT


meg (2012年4月11日 16:12)

Mail Form

もしお気づきの点やご感想などありましたら、
mellowrism☆gmail.com(☆=@)
までよろしくお願いいたします。

Copyright © 2008-2012 Meg. All rights reserved.