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Möbius - 11





「そういえば、分寮ってなくなっちゃったんですよね?」
「......ああ。」
「ゆかり達はみんな卒業して、普通寮も出て......。あれ、わたし家なき子ですね。」
「.........。」
「そういえば、服もこの制服しかないですよね。」

 これは、戻ってきて早々、親戚のところへ行かざるをえないか。(制服と携帯電話以外何も持っていない浪人生が、いきなり1人で自活できるほど、世の中甘くないことは重々承知だ。)たしか、あの人たちは今、海外にいるはずだ。ということは、わたしも、短期間とはいえ、海外へ出向かないといけないのか。

 ......離れたく、ないな。

「家ならある。......服も、ある。」
「......?」
「お前の物は、みんなうちにある。」
「へ......?」
「ようやく、独り寂しくダブルベッドで寝なくて済むな。」

 ばっと、彼の胸に埋めていた顔を上げる。よほど、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたのだろう、わたしの顔を確認すると、ぷっと吹きだされた。それでも処理が追いつかない、わたしの頭。

「あ、あの、意味がよく...。」
「言わせるな、バカ。」

 こつん、とおでこでおでこを突かれた。あ、えと、つまり...。

「.........!!!」

 声に出す間もなく、「ああ、そろそろ行かないとな」と抱擁をほどき、彼は立ち上がる。これを持っておけと握らされたのは、以前使っていた、懐かしいパスケース。もちろん、ICカード入り。忙しいな今日は、と彼は苦笑する。(そんなことより、彼のコートのポケットは、青い猫型ロボットのポケットか!?と思ったことは、とりあえず黙っておく。)

「いつまで呆けている気だ。ほら、行くぞ。」

 そう言って右手を取られ、立たされる。その右手は離されることのないまま、またどこかへ向かって歩き出す。

「ええっと、今度はどこへ!?」

 本当に今日は忙しい。彼の腕の中で眠ったと思ったら、この世でないどこかで、どこかに吸い込まれたと思ったらポロニアンモールの裏路地で、黒沢さんに拉致されたと思ったら知らない大学で...そうして、あなたと今、ここにいる。

「聞いたらきっと驚く。」

 続きを口に出そうとして、急停止する。勢いで背中にぶつかり、今度はなに!?と抗議の声をあげた。
 振り返った彼は、ひどく優しい声で

「......忘れ物だ。」

 そうして先ほどと同じように、左手で顎に手を添え、少し顔を上向かせられて......ひどく優しいキスが、落とされた。






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meg (2012年4月11日 16:20)

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